本、絵画、映画と戯れる日々を

本や映画など何かしら作品の感想を書いていきます。

日常系サスペンス??『花とアリス殺人事件』

 

 

基本的な情報(Wikipediaより)

この作品は、岩井俊二監督の作品『花とアリス』の前日譚である。『花とアリス』自体は2003年にネット配信された作品であり、それを元に2004年に実写映画化されている。そして今回観た作品『花とアリス殺人事件』は2015年にアニメ映画化されており、以下のような評価を受けている。

2015年アヌシー国際アニメーション映画祭の長編コンペティション部門正式出品第19回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞受賞作品

 

 

あらすじ

両親の離婚により石ノ森学園中学校へ転校してきた有栖川徹子。クラスメイトのよそよそしい態度に不機嫌になる徹子であったが、昔通っていたバレエ教室の友人風子との再会し、一年前に学校で起こった奇妙な事件を知る。なんとユダが4人のユダに殺されたのだという。その謎の真相を確かめるべく乗り込んだのは徹子の隣の家。そこは当時事件が起きたクラスの生徒だった荒井花の住む家だった。果たして二人は真相に辿り着くことができるのか。

 

感想(ネタバレ)

細かいところまで作り込んでいるなと感じた。味わい尽くせたとは言い切れないが、いくつか感想を述べたい。

 

一つはスロー再生の使い方である。最初の方で徹子が二階から落ちる場面、最後の方で父親を追いかけて走る場面、その直後歩きから走りに変わる一連の流れなど体の動きが映える場面でその動きをじっくり堪能できることがこの作品の醍醐味であった。

 

次に徹子の家のインテリアである。絵や時計など所狭しと飾られている。それでいて、ものが溢れている感じもあまりなく絶妙な加減であった。四角い額縁から、丸い額縁、少し凝った形のものまで大きさ、種類が様々でこういうのを好む人が作ったのであろうかと想像が膨らんだ。ちなみに人形もたくさん飾ってあった。母と徹子どちらの部屋もぬいぐるみや写真で彩られていたので二人とも好きなのだろう。私だったらVTuber印象派の絵で埋めたいと思う。異色の組み合わせかもしれないが個人的にはありだと思う。

教室の雑多な演出もリアリティがあり、また背景や人物の動きにアニメ特有のデフォルメが少ないのは、モデルの動きをカメラで撮影してそれをトレースする手法である「ロストスコープ」の貢献が大きいのかもしれない。

 

音に関してもいくつか好きな場面があったので紹介しよう。

まず徹子が自己紹介で黒板に名前を書く場面。カツカツではなく、コツコツコツというこもった低めの音が心地よかった。

あとは、リコーダーのBGMが音楽の授業とつながっていたり、ダンス教室で使っていた音楽がそのままBGMにつながったりという演出も好きだった。

あとは登場人物の声について。独特な個性を持った人物が登場し、風子のフニャッとした声や花のかっこいい低音ボイスには初めは驚いたものの、慣れてくるとその人物を表すトレードマークみたいに感じられる。

BGMがなくセリフだけの場面も比較的長い気がして不思議とその場面に引き込まれる感覚がした。

 

最後にコミカルな雰囲気について。題名とは似ても似つかないほど終始シリアスな雰囲気がなく、コミカル全開の作品だった。全開とはいえ、常に全力で笑わせにくるというのではなく、例えるならば鹿威しのように、ある程度の間を置いてコツンコツンと笑いのツボを刺激してくる感じだ。

一つ場面をあげると、ユダの父を追いかけているつもりで全く違う人を追いかけ続ける徹子が、タクシーに乗ったユダの父(と思ってる人)をタクシーで追いかける一幕があるのだが、お金がなくなり途中で諦めかけたところ家を出たきり帰ってこなかった父を追っているとタクシー運転手に嘘をつく演技の嘘っぽさが絶妙にうまくて思わず笑ってしまった。

他には、風子のバレエ教室を見学した日の夜中、バレエを踊っていたところを母に尋ねられる場面で、見られたくないものを見られてしまった時の徹子の声になっていない声。この場面も好きだ。

 

物語の最後にはユダと花が再会し、会えたというだけで花的にはハッピーエンド?だったようだ。好みは分かれるだろうがとりあえずハッピーエンドで終わったのも個人的には良かった。ただ、この作品は「花とアリス」の前日譚ということなので、そちらがどんな作品なのか見てみたい。

 

あとがき

感想を書くことを前提に、素人なりに細かいところまでじっくり見て、メモを取りながら見ていたのだが、なかなか大変でもあり、楽しくもありました。じっくり観るにふさわしい作品であったことは間違いなかったように思います。

登場人物の名前も凝っていて、有栖川徹子の前の名字が黒柳だったり、陸奥睦美という名前もユダに取り憑かれたという雰囲気に合ってる気がするんだよなー。陸奥睦美がユダの幽霊に取り憑かれた場面は、二週目観るときに必見の場面です。あれを演技でやったというのだから、役者になった方が良いくらい笑。いじめられていたというのが大きな原因であるわけだが。

 

ここからはVTuberを知っている人にぜひ見てもらいたい。それ以外の人は何を言ってるのかわからないと思うので無視してください。もし気になる人はYouTubeで「にじさんじ」、「まりなす」と検索してみてください。VTuberがどんなものか分かると思います。

この作品に出てくる人物でこれは誰々に似てるなと思ったことがあったので紹介します。気になった人がいたらぜひ確認してほしい。今の時期はアマゾンプライムで観れると思います。

今回は「にじさんじ」と「まりなす」のメンバーが登場します。最初に断っておくと、常に似ていたということではなくて、その人物のある一場面が似ていました。

まずはまりなすから音葉なほ。風子が学校での事件を説明する場面。16分すぎあたり。「殺したのもユダ」というセリフがなほちゃんそっくりだと思った。その前のセリフ「あのね、学校でね、一個上の男子が死んだの」もなかなか可笑しい。人が死んでなさそうな口調で言われてもな〜、ん〜もどかしいっ!、と心の中でつぶやきながらで聞いてました。なほちゃんが真似したら絶対めちゃくちゃ似るのでいつかの配信で真似をしてみてほしい。そもそもバレエを習っているという設定からしてなほちゃんに似ている。

続いてにじさんじから樋口楓とまりなすから鈴鳴すばるの二人。それぞれに似てる場面があるので紹介。

まず樋口楓に似てる場面から。

11分あたり、風子と再会する場面。樋口楓っぽいし、声も似てる。22分すぎ、ヤンキーっぽさを出した時の樋口楓に似てる気がする。

続いて鈴鳴すばるに似ている場面。

まず足が速いのが鈴鳴すばると同じ。

42分からの一連のセリフ、振る舞いが鈴鳴すばるっぽい。特に、46分あたりの「あたし行かないよ」ってセリフ、すばる様がふざけて言いそうな気がした。そのあとのふざけっぷり、ドジっぷりもすばる様が演じていたら面白いだろうなーなんて不覚にも思ってしまった草。あとは、私の勝手なイメージだが、花とユダの再会の場面でユダに声をかける場面、誰にでも絡んでいけるすばる様っぽいイメージと一致していた。ここは樋口楓っぽさもあるけどね。

そもそも樋口楓と鈴鳴すばるが同じような性格だったかもしれないなと、今記事を書きながら気づきました。

これから先、いろんな作品を見る時もこれVTuberの誰々に似てるとか、思いながら見ることになるのかな。。。良いのやら悪いのやら。。。

 

あっ、ちなみにで書くことではないが、記事の題を「日常系サスペンス??」と書いた。日常系ではあるのだけれど、子供特有?の緊張感ある、でも警察沙汰にならないくらいの彼らだけの非日常(ちょっとした冒険)を上手く表現した作品であると思う。

 

 一歩踏み込んで(関連情報)

アヌシー国際アニメーション映画祭

アヌシーとはフランスの都市名である。リヨンの東、ジュネーブの南という位置にある。

アヌシー国際アニメーション映画祭には、長編部門、短編部門、学生部門、テレビ部門、広告部門がある。1960年にカンヌ国際映画祭からアニメーション部門を独立してできたものである。

日本の作品について主なグランプリ受賞歴を載せておこう。(Wikipediaより)

短編部門

長編部門

広告部門

  • 「Tissue Animal」:新井風愉、2014年

グランプリ以外の主な受賞歴(私がみたことのある作品)

時をかける少女」(特別賞)

この世界の片隅に」(審査員賞)

 

今まで全然知らなかったのが悔やまれるが、日本の受賞作品をみるにきっと海外の作品も素晴らしいに違いないと思われる。このアヌシー国際アニメーション映画祭で賞を受賞している作品を海外アニメの入り口としてみるのは、作品の質が高そうという面からしても良いと思う。もちろん、ディズニーやピクサーなどを入り口にしても良いと思うが。

僕としては、日本の受賞作品で見ていない作品から見てみたい。

ちなみに、僕のようなアニメーション世界に疎い人間が日本作品をもっと味わいたいと思ったら、今回の記事に関連するところで、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門を参考にするのも一つの手だろう。こちらは1997年から始まったもので、これまでのアニメーション作品で優れたものが集まっているはずなのでその時のフィーリングでどれを見ても良いだろう。ただ、世界中から公募していることもあって最近は外国の方の作品も増えている。それでも比較的日本のアニメーションを取り上げている方だと思うので、参考にはなるはずだ。視点を変えると、それだけこの賞の価値が世界に認められてきたということでもあり、日本にとって大変喜ばしいことだ。(偉そうなことは言えないが)

文化庁メディア芸術祭のサイトでもこの芸術祭について以下のように述べている。

第22回は、世界102の国と地域から4,384点に及ぶ作品の応募がありました。文化庁メディア芸術祭は多様化する現代の表現を見据える国際的なフェスティバルへと成長を続けています。

 

 第22回は西暦では2018年の回になりますね。100を超える国から応募があるとは、、、確かに国際的なフェスティバルといって良さそうだ。

これ以上脱線すると話にまとまりがなくなってしまうが、最後にもう一つ、この文化庁メディア芸術祭はアニメーション部門の他に、アート、エンターテインメント、漫画の部門もあるようだ。きになる人は調べてみるのも良いかもしれない。

リンクを載せておく。

j-mediaarts.jp

 

ロストスコープ

この作品、よくみるアニメと描かれ方が違って独特だなと思っていたら、その手法にちゃんと名前があった。それがロストスコープ法である。WIkipediaでは、

モデルの動きをカメラで撮影し、それをトレースしてアニメーションにする手法。

と説明されている。

 1919年に初めてのこの手法を用いた商業作品が制作されているので、以外にも古くから用いられてきた手法のようだ。ただ、その過程で進化してきてはいるのだろうが。

代表的な作品には「白雪姫」、「指輪物語」がある。