本、絵画、映画と戯れる日々を

本や映画など何かしら作品の感想を書いていきます。

片想いよどうか実ってくれ!!『凪のあすから』

はじめに

凪のあすから』はP.A.WORKSによるオリジナルアニメである。2013年10月~2014年4月までの2期にわたって放送された。

P.A.WORKS代表取締役からの「若いスタッフがやりたいものを」という発案で企画がスタートしたらしい。(Wikipediaより)

P.A.WORKSの作品はこれまでにも『花咲くいろは』、『SHIROBAKO』、『サクラクエスト』、『色づく世界の明日から』などを観てきて、どれも主人公の必死に生きる姿や映像の美しさに感動した素晴らしい作品だった。

他にも『有頂天家族』、『さよならの朝に約束の花をかざろう』、『Angle Beats!』など見てみたいと思う作品をあげると枚挙にいとまがない。というのは言い過ぎか。。。

素晴らしいオリジナルアニメを作り出していることがP.A.WORKSの一つの特徴かもしれない。

 

あらすじ

舞台設定が少し特殊で、海の中で暮らす人間と陸で暮らす人間がいる。海中の学校が廃校になり、陸の学校に転校する場面から物語は始まる。

舞台は前半と後半に分かれている。

 

陸の学校へ転校することになった海出身の4人の生徒。

情熱的で気づいたら行動に移してる、高い壁も先頭切って乗り越えていこうとする姿はまさに主人公、光。

明るく元気なところが取り柄、ついて行くだけだった自分から進んで行動する自分へ成長を遂げようと奮闘するまなか。

包容力溢れるお姉さんキャラ、今の関係を壊すのが怖くてなかなか一歩が踏み脱せずにいるが、果たして一歩踏み出せるのか、ちさき。

どこか達観していて余裕があるように見えるが、実は寂しい気持ちを隠している?めちゃくちゃ優しい、どうか報われてくれ、要。

 

そして、陸出身の3人の生徒。

無口なくせにさらっとキザなセリフを吐くイケメン、優しくて優秀、周りの男子がかわいそうだぞ、紡

大人っぽさと子供らしさを兼ね備えているしっかり者、さゆとの友情関係は理想的、初恋の輝きよ永遠なれ、美海(みうな

一見やんちゃそうなのに実は優等生、ツンツンしているの可愛い、思ったことをはっきり伝えることができてたくましい、さゆ

以上がメインの人物だ。

 

廃れてしまった行事「おふねひき」を復活させるべく行動する光たち。陸の人間と海の人間の間にあるわだかまりが衝突し、いろんな感情が交錯する中、恋の関係もまた複雑に絡み合っていた。

好きという気持ちは苦しい。好きにならなければよかった。好きは大事。好きはあったほうがいい。

正解はないかもしれないけれど、それぞれが自分なりに答えを見つけて歩み出す、そんな甘くて苦い物語。

 

感想(ネタバレあり注意)

このアニメ、恐ろしく片想いしか出てこない(特に前半)。制作陣の中にそういう性癖の人がいるとしか思えないほど特殊な設定になっている。

都会の通勤電車よろしく片想いを詰めに詰め込んだこの作品で、彼らが仲良くやっていけるのは奇跡以外の何物でもない。それでもアニメだからこそ描ける、アニメの力を存分に活かした物語だと感じた。

とりあえず私の主観で人間関係をまとめてみた。

 

前半はこんな感じ

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恐ろしいほどに一方通行の矢印しかない。

まなか、光、ちさき、要の4人は小さい頃からずっと一緒で仲良くやってきたという。この4人でなかったら泥沼の修羅場がいつ訪れてもおかしくない。

相手との関係が壊れたらと思うと気持ちが伝えられない、ということはしばしば聞くが、それを伝えるために絶好の状況を作り上げたと思う。

そんなシチュエーションでも仲良くやってこれたのは4人が4人とも優しい人間だったからであろう。

仲良くとはいえ、毎回悩んでは涙する場面が描かれており、胸が苦しくなるシーンは他のアニメに比べ多かった。

 

後半はこんな感じ

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相変わらずだが、最終回に向かうに連れて少しずつ各々が気持ちを整理していき、最後はこんな感じに落ち着いた。

 

最後

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まなかと光、紡とちさきが結ばれて、さゆと要がこれから距離を縮めていく、みうなは初恋叶わず。

みうなを含め、みんな最終的には前向きな気持ちで新しい一歩を踏み出しているので、ハッピーエンドだ。

 

 

さて、ここからどうまとめようか、、、

主要な登場人物が多いんだよな、、、

と悩んだ結果、人物ベースの構成が書きやすかったので人物ごとに感想を書く。

まずは、光。

最初の紡とまなかのドラマチック?な出会いの瞬間を目撃した光。まなかのことが好きだった光は、まなかと紡の特別な出会い、そして恥ずかしくて見せられないと言っていた”魚面そ”(うろこ様の呪いで皮膚に現れた魚の顔)を紡には見せていたことなど、まなかが紡を好きなのではないかという想いが膨らみ、その結果まなかにきつく当たってしまう。

この辺は寝取られの感覚に近い気がした。実際に体験したことはないので単なるイメージだが。いつも自分の後をついてきていたまなかが、急に自分ではなく他の人と過ごすようになったら空虚感に襲われるのも無理はない。僕も見ていて辛かった。

それでもまなかの幸せを思って紡と結ばれるようにと一生懸命な様子で、それが11話の「ひぃくんはいつから男になったんだろう」というまなかのセリフに繋がったのではなかろうか。

あらすじにも書いたが、彼の行動力は凄まじくさすが主人公だと思った。やっぱりこう、苦しい状況でも諦めず熱い心を持って走り出せ、何が何でもやってやる的なハートが主人公っぽい。そして行動力の高さに比例して悩んで傷ついてるものだから、嫌でも成長速度が速い。

ううむ、、

行動力は大事だという結論になってしまった。ちょっと納得がいかないが、実際にそうであることは変わらないのでこの辺で光の話は終えよう。

 

まなか

彼女はおっとりしていて、どこか抜けていて、でもしっかり考えて悩んで過ごしている、憎めないキャラクターだ。

声優には全く詳しくないのだが、花澤香菜さんが声を当てている役だけはすぐ分かってしまう。。。この作品でもそうだった。

背後の声優が頭にちらつきキャラクターそのものに集中できない弊害もあるが、その分は声を当てる香菜さんの能力の高さで補えている気もする。

 

まなかの印象的な場面は探せば幾つでも見つかるが、その中でも一番はウミウシに語りかける場面だ。11話ではその内容は明らかにせず、いつ出てくるのかな、と思っていたら物語のトリにこのセリフを持ってきた。第一声は「ひぃくんが好き」だった。

25話にしてようやくまなかの声で光のことが好きだと聞くことができた。やっと、、、やっとその声を聞くことができたと感無量だった。その一言をどれだけ待ち望んだことか。

 

そんなまなかは途中で海神様から人を愛する心を失ったわけだが、その時の好きという気持ちがわからないという感情と、前半に言っていたこの気持ちが好きなのか分からないという感情の対比が面白いと思った。

どちらも好きという気持ちが分からないのは同じだが、それでも質的には違うものだ。前半には好きか分からないけど好きっぽい感情はあって、後半目覚めた時はその好きっぽい感情すら抱けなくなっていたということだろう。好きかもしれないと悩む機会、恋い焦がれるチャンスを失ったということもできそうだ。

 

何はともあれ、光とまなかが結ばれて一件落着。

 

僕がこの作品で一番報われて欲しいと思ったのがこの要だ。ちさきのことが好きで、でもちさきは光のことが好きで、後半は紡のことが好きになっている。思い切ってちさきに告白するも返事はいつまでももらえず、冬眠から覚めてそれとなく気持ちを伝えるもまだ返事はもらえず、、、なんと悲しいことよ。結局作中では最後まではっきりとした返事はなかったと思う。それにもかかわらず要は自分の気持ちを押し殺してちさきの幸せを願って、ついにはちさきと紡の中を取り持つ。

 

問題はちさきだ。なぜ断ってあげなかったのか。付き合うつもりもないのに、断りの返事も入れない。他人から急に告白されたなら分かるが、幼馴染であればその気持ちに応えてあげてほしかった。

光か紡か悩むのはもちろん良いが、せめて要の告白を断ることも忘れないでほしかった。

 

最後の方にさゆが要に想いを打ち明ける場面は心にぐさっと刺さった。それに応える要もかっこよかった。よかったね、要。

 

ちなみにこの作品で一番好きなペアは要とさゆだ。

 

ちさき

要のところで散々なことを書いてしまったが、ちさきが魅力的であることは何も変わらない。

 

海出身の生徒で冬眠をしなかったのは彼女だけであり、他3人と昔と同じように接していけるのか不安で仕方なかったに違いない。変わるのが不安だと行動できないでいた本人が、冬眠によって変わることを余儀なくされたのだから。

 

冬眠前、光に好きだと伝えた場面で好きと伝えられただけで満足だと語ったシーンがあったが、その気持ちはよく分かる。怖くて踏み出せない人間が一歩踏み出すにはそう思わざるを得ない。そこから次の一歩が踏み出せたらどんなにいいか。

 

全体的に映像は美しいのだが、ちさきは美しく描かれる場面が多かったように思う。

19話はちさきのコスプレ回と言ってもよい。

20話始め、ちさきのたおやかさを前面に押し出したシーンは見逃してはいけない。

 

彼は完璧な人間として描かれている。ただ優しいだけじゃなく、芯を持って生きている感じがそう感じさせたのだと思う。さらにクールな割にお茶目なこともできるのでどこにも隙がない。

周りにこんな男子がいたら女子はほっとかないだろうが、男子もほっとかないだろう(変な意味じゃなく)。紡一人いるだけで周りの士気がグッと上がる、そんな気がする。

 

恋心を描写した場面はごくわずか、多くは語らず。ちさきと一つ同じ屋根の下で想いを持ち続けているのに、ちさきの気持ちを推し量って自分の想いは胸にしまい5年間。よくそれだけ耐えたと思うが、最後はちさきと結ばれて幸せそう。

 

忘れてはならないが陸の人間のことを真っ先に受け入れたのが何を隠そう紡だ。分け隔てなく人と接する紡がいたからこそ、海出身の4人が陸の生活に馴染んだのだ。そんな彼の優しい心を見習いたい。

 

みうな

彼女だけが誰とも結ばれずにエンディングを迎えたが、大事な役割を見事全うしてくれた。

好きという感情とどう向き合ったら良いのか、その答えを作中ではっきり答えているのは他の誰でもない、みうなである。

「光に伝えたい。こんな風に私を思って泣いてくれる人を好きになってよかったって」というセリフが一つの答えだ。

ずっと光のことを思いながら、光が好きなまなかの体も心配しながら行動していた。それこそが光のみうなに対する想いを創ったのだ。

 

後半のメインヒロインでもあった彼女の印象に残ったシーンをいくつか挙げよう。

25話では光に「マナカのことが好きだと言って」とせがむ。それを受け止めよう、自らの心に鞭を打とうと初恋を諦める姿は涙なしでは見られない。

26話で光がみうなを思って回想するシーンも胸を打たれた。

 

さゆ

前半はガキンチョというイメージしか持たなかったが、後半ではなんと学年で一番成績優秀な生徒になっていて驚いた。要の冬眠で恋を諦めそのエネルギーを勉強に当てたわけだ。それだけ恋のエネルギーは偉大なのだと僕は受け取った。

 

思ったことをはっきり言う性格を通して改めて僕はそういう性格の人が好きかもしれないと気づいた。さゆはみうなほど登場する場面が多いわけではないが、だからこそ登場すると物語を一歩進める、展開する役割になっていたと思う。

要のところでも書いたが、24話で要に想いを打ち明けた場面が彼女が一番輝いた場面だった。踏切越しと言うシチュエーションもgoodだ。

 

その他

その他にしてしまうには大事な場面であるのだが、人物ベースで書いてしまったのでここに書くことにした。

 

この作品は今まで散々書いてきた通り恋模様を描いた作品であるが、映像的には涙に力を入れていたように思う。小学生並みの感想になってしまい恥ずかしいがとても綺麗だった。

涙も綺麗だったが、もっと広く水の描写は素人ながら特殊な気がして、この作品にかかわらず個人的には水の描写が好きである。モネの作品が好きなのも彼が水を描くことに力を入れていたからかもしれない。

 

美しい場面は他にもたくさんあるのだが、13話であかりさんがおふねひきに臨む際の服装がめちゃくちゃ綺麗で、一度見始めたからにはここまで見ないと見たとは言えない。いや、それは言い過ぎか。少なくとも見ないと損ではある。まだ見ていない人はぜひ見てほしい。夫の至さんの見れないという気持ちもよく分かるが見ないという選択をしてはいけない。死んでも死に切れない。

 

あと、他のことを書いていたので書けなかったのだが、どのキャラクターも可愛い場面がたくさんあって最高だった。

 

ありがとう、P.A.WORKSさん

そしてこれからもよろしくお願いします。