【読書】『R帝国』を読んで。〜今の社会と物語のリンク〜
以前の記事で中村文則さんの小説にハマったというお話をしました。
今回は『R帝国』を読んだので、その感想を書きます。
(全然まとまりませんでした・・・)
著者はあとがきで、現実とリンクする小説にしたかったと書いています。
さらに、単行本を出したのは2017年だが、2020年の今書いたものであるように錯覚し、奇妙な感覚に陥ったとも述べています。
この作品を読めばなぜそんな感覚に陥ったのかよく分かると思います。
なるほど、そういうことか!という感覚を読書で味わいたい方は、ここから先ネタバレにご注意ください。
さて、上記の「現実とリンクする小説」という点に着目して感想を書きます。
その前に、舞台設定、大まかな流れを書きます。
いくつかの国が登場するので、ざっくり書いていくと
R帝国→日本
B国→北朝鮮
Y宗国、G宗国→中東
A共和国→アメリカ
C帝国→中国
W国?
だと思います。
R帝国の舞台設定
HPと呼ばれる人間の学習能力を超えた、そして感情も兼ね備えたような携帯端末が出てきます。スマホが数十段改良されたバージョンと思えば良いと思います。
ほぼ全ての情報はそこから得ることができ、自分に最適化された指示も出してくれる優れものです。HP同士で勝手にお話しすることもあるようです。プログラムのバグを見つけ、修正する、なんて作業も行えることになっています。
考えるよりも先にHPが答えをくれる、そんな社会になっています。
国は民主主義という体裁をとっていますが、実質与党の一党独裁です。マスコミは与党の宣伝役で、SNSも含め政府に都合の悪い情報は流れません。
徹底した監視社会にもなっています。
また、ある人種にだけ効果のあるウイルスを開発しています(実際はそうではなく、R帝国の国民が予防ワクチンを接種しているだけ)。
他にもいろいろありますが、とりあえずそんなところです。
野党や、Lという革命グループ(権力に抵抗し、自由や多様化を求めるグループ)も登場し、与党の大きな権力に向かって裏でいろいろ画策しています。
こんな感じだと思います。
次に全体の大きな流れについて
その最中、突然R帝国最北の島(コーマ市)にY宗国の軍隊が乗り込む。(R帝国の与党上層部がうまい具合に攻めさせる)(冒頭直後〜中盤)
Y宗国の軍隊から防衛するためR帝国がコーマ市に軍隊を派遣、反撃。(冒頭直後〜中盤)
大局的にはこんな感じです。
戦争を仕掛けさせて、それに反撃するという流れです。
主役にスポットライトを当てると
・コーマ市に住んでいる青年
コーマ市が突如戦場と化し、それに翻弄される。
コーマ市民の死に直面、コーマ市にいる役人の不可解な行動、言動・Y宗国のある兵士との出会いと別れ、理不尽な拘束などを経て、最後は元恋人と暮らす。
・野党トップの秘書を務める青年
ほぼ全ての場所で監視・録音されている社会なので、議員とは密かにやりとりを行うしかなかった。極秘な任務を行うよう指示されLというグループと接触することになる。
それをきっかけに政界の闇に足を踏み入れ、仕えていた議員にも裏切られ、Lの一員と共に行動するが、テロの襲撃に遭い死亡
・暗躍する与党上層部
物語はほぼ全てこの与党上層部の思惑通りに動く。何かトラブルが起きても、もはやそのトラブルではびくともしないほど強大な権力を握っている。
という感じでしょうか。
一言で書くと絶対的な権力に翻弄された一国民・抵抗グループ、です。
前置きで長くなってしまいましたが、今の世の中と比較して見ていきたいと思います。
与党が絶大な権力を持っているという設定は、現に今の日本が実質それに近い状態にあるので、小説のように全ては与党の思うままにという状態にさらに近づく可能性ももちろんあるでしょう。小説ではその影響として、監視社会、言論統制、表現の取締りなどが出てきます。
SNSやマスコミですでにそのような兆しが見えるという話も聞くので、これからどう転がるのか注目していこうと思います。
そこで監視社会に一役買っているのがHPです。監視カメラもそこら中に張り巡らされていましたが、人々がどういう情報にアクセスし、どんな考えをもっているのか、その全てはHPに入っているわけです。ハッキングしてそこにアクセスできれば、もしくは情報を勝手に流すプログラムを密かに仕込んでおけば、強固な監視社会が出来上がります。
現実世界では少し前にスノーデンさんが起こした騒動がこれに対応しそうですね。とはいえ、何ができるのかと言われると特別なことは何もできないですから、せめて情報のアンテナをはるくらいはしておきたいです。
小説では権力者に都合の悪い情報が一切流れない世界となっているので、そういう動きが活発になったら、終わりの始まりがきた、と思うことにします。
ウイルスの開発についてもテーマとして扱っていて、まさにこの部分が著者の奇妙な感覚に陥った原因だろうと思います。
COVID-19ですね。人工的かどうかも論点になりうるのですが、ここではパンデミックによる影響の大きさに着目します。
小説では、戦争状態による混乱もあり、ウイルスによる被害としては身体へのダメージと生物兵器かもしれないという恐怖が主に描かれていました。
実際にこういう状況になって分かりましたが、それらと同等かそれ以上に経済への影響がとても大きいですね。。。
今までも鳥インフルエンザなどが流行っていたり、外国でまた違うウイルスが流行っていたりというのはありましたが、自分の身近で起こって強制的に気づかされました。
ちょっと前に感染症の歴史に関する本も読みましたが、歴史的に見て何十年かに一回は感染症が流行るものらしいです。
仮に今回のものが収まっても、心が休まらないですね。。
感染症による危機以外に経済危機もあります。さらに気象災害、自然災害が現に頻繁に起こっていることも頭に入れておかなければなりません。
ゲームに例えたら、これだけのハードモードなのに残機1で途中セーブもできないなんて鬼畜すぎる、、、と思わざるを得ないですが、良い意味で諦めて進めるしかないです。
最後に
ここまで書いて気づきましたが、本当にたくさんのテーマが詰め込まれていますね。
これ以上とっ散らかると自分で見返すのも嫌になってしまう気がするので、この辺で終わります。