本、絵画、映画と戯れる日々を

本や映画など何かしら作品の感想を書いていきます。

【読書日記】【彩瀬まる】『神様のケーキを頬ばるまで』

久しぶりの投稿になってしまいました。なかなか文章が思ったように書けず、この記事も時間がかかってしまいましたが、頑張って書いたので是非!読んでくれると嬉しいです。

 

彩瀬まるさんの作品です!

とても読みやすく、読書って素晴らしいなぁ、と思いました(笑) 

 

全体の感想

 

全体は5つの話に分かれているものの、ある話での主人公が、別の話でひょこっと再登場するなど、緩やかにつながっている。

主人公たちの間に直接的な関係はない。とはいえ、ある話で主人公が働いているビルの違う職場の人が別の話で主人公だったり、主人公が通っているお店の店員が別の話の主人公だったりと、すれ違う可能性がある、くらいには繋がっている。

うまいなぁ、と思うのは構成の仕方で、お話ごとにテーマがあり、その上で全体が滑らかにゆったりとつながっているのだ。

このゆるい繋がりというものを、僕たちの日常に置き換えることもできるのでは?と考えてみたくなった。

街ですれ違うあの人にも、毎日教室で顔を合わせるこの人にも、恋人や家族がいれば、比較的身近な存在に思える人にさえ、その人だけのドラマがあるんだな、と想像してしまう。

街を歩いているときに、職場や学校にいるときに、ふと、あの人はどんな物語を作っているのだろうと考えてみることの面白さよ!

何かつらいことがあって現実逃避したい時は、周りの人の物語を想像するというのも一つの手だな、ふむふむ...

 

辛くなったら街に出て歩け、とね

 

 

さてさて、話を戻そう。

書く話ごとに感想を書いていきたい。

 

『泥雪』

主人公は子供を二人もつ母で、夫とは離婚している。マッサージ店を営んでおり、お客さんの悩みを聞きながら自身の悩みとも向き合う、そんなお話。

 

感想

周りにひときわ輝いて見える人はいないだろうか?

それって実は、その人の裏側を知らないだけなのかもしれない。

残念ながら、世界はやさしさだけでなく、憎悪や苦しみもあちこちに存在する。

立派に見える人はそれを受け入れ、その上で必死に生きているから、その姿が輝きを放つのかもしれない。

つまり、人が見えない裏側では地道に泥臭くもがいているが、人には輝いている部分しか見えず、ついついそれがすべての様に錯覚してしまうのだろう。

 

『七番目の神様』

「どうでもいい奴にどう思われようと、関係ないだろう。なんだお前、そんな奴らのことまで気に病んでるのか」

人付き合いは苦手ではないが、その先に踏み出せないカフェの店長♂(主人公)と、時々河原に姿を見せる気の強そうな初老のおじさんの会話で、おじさんが発した一言だ。

主人公が、お仕事や恋愛に悩みながら日々を過ごし、自分の殻を破ろうとひびをいれたところで物語は終わる。

 

感想

自分の好きなことは見つけている人も多いと思う。それが小さなことでも全然かまわない。それが、自分らしさをを作り上げるのだろうと思っていた。

しかし、それだけではないようだ、とこの物語を読んで感じた。

何かというと、人には向き不向きがあって、それを見つけられるのも自分らしく生きる1つの道なんだ、ということである。

世の中には、学校があり、勉強ができるできないで評価されがちだが、それはその子の一面に過ぎない。たまたま勉強に向いていない子もたくさんいるのだ。

彼らには勉強以外のところで才能があるはずで、そこに気づけるかが大事なのかもしれない。もちろん、好きなこと、向いていることが一致する人もいて、その人ばかり注目されがちだが、それはごく一部の人だけだ。

好きだけど向いていないことだってたくさんあって、あのゴッホさえ、職を転々として20代の後半になってから画家として歩み始めたくらいだ。

そう思えば、まだまだ自分にだって向いていることを見つけるチャンスはある!

 

『龍を見送る』

全くの無名から、徐々に名を挙げてきた二人組のバンド。そのボーカルが主人公を踏み台に新たなパートナーとさらにバンド界を駆け上がる。

 

感想

主人公が、同じ事柄に対して、全く異なる意見を聞く場面がある。

どっちが正しいとかではなくて、自分の考えの軸をもって、それを自分の意見として伝えられるか、が大切なんだなと感じた。

僕も自分の考えを自分の言葉で話せるようになりたい。最近、文章で自分の気持ちを書き出すことはできるようになったけど、これだけだと粗いし、伝えられるまではいかないな、と思っているので、もっと自分の考えというのを自分で理解する努力をしていきたい。そして、相手に伝わるような話し方をしたい。

 

 

『光る背中』

主人公の女性は、さぞモテるであろうエリート商社マンにアタックをかけるがなかなかうまくいかない。そんな中、一人の女性との出会いをきっかけに、一歩前へ踏み出していく。

出会った女性は可愛い上に、「自分の目」をちゃんと持っていた。それが主人公の心に響いたようだ。

 

感想

僕が自分の意見を言えないのは、上で書いたように理解していないこともあるのだが、その意見のために嫌われるのが怖いからかもしれない。人に嫌われる経験がないからなのだろうか。嫌われてもどうってことないと思えれば、良い方向へ変わっていけるかもしれない。

 

主人公が出会った女性が主人公に語りかける場面があって、そこで大まかに以下のように話していた。

(映画の作品に対して)、評価が真っ二つに割れるのは、自分を素直に表現した作品故である。そのため、違う意見を持つ人にはひどく嫌われてしまう。逆に、みんなから嫌われない作品はどうでもいい作品なんだ。

 

そうかもしれない。イチローもこれと同じようなことを言っていたのを思い出した。

『塔は崩れ、食事は止まず』

主人公は、アルバイトの下積み時代からともに過ごした、カフェの共同経営者と意見の対立からお店を離れることになり、一寸先は闇、という生活を送る羽目になった。しかし、そこからかちかちっ、と歯車が回り始めた。

半年後には今までは想像もしなかった世界が広がっていた。

 

感想

大切なのは過去にとらわれないこと。

現状が悲惨でも、頑張って生きていれば1年後には今の自分には想像もできない世界が広がっているかもしれない。僕は今まさにそれに近い状況に置かれている。研究室に配属されるのだが、どこに配属されるかで僕の将来は良くも悪くも大きく変わるだろう。自分にできることは、その環境で精いっぱい頑張ることだけだ。

時に悪い方向に進むこともあるだろうが、良い方向に進むことだってあるはずだ。

物語では、長い、深い付き合いがあった人との別れがあるが、その辛い別れは、新たな出会いに巡り合う出発点でもあるのだ。

 

神様のケーキを頬ばるまで

神様のケーキを頬ばるまで