本、絵画、映画と戯れる日々を

本や映画など何かしら作品の感想を書いていきます。

『望み』〜落日〜

今回は『望み』という小説を読んだので、その感想です。

 

この作品に出会ったのは、YouTubeのCMでしたね。。

今年(ギリギリ今年)映画化されたらしく、その主題歌を森山直太朗さんが書き下ろしています。

その主題歌が題名に副題として載せた『落日』です。

この曲めちゃめちゃ良いです。切ないバラードなのですが、僕の好みにぴったり合っています。改めて森山直太朗さんの歌の良さに気づきました。

 

さて、本題に入ります。

ガッツリ感想書くのでネタバレ注意です。

 

 

サスペンスミステリーというジャンルのようです。

 

主な登場人物についてメインの家族だけ書きます。

父:一登(かずと)

建築デザイナー。家はその家族の人生観や哲学を反映させるという立派な考えを持っており、そこそこ順風満帆な生活を送っている。

母:貴代美(きよみ)

建築雑誌の編集者だった時に一登と出会い結婚。子供ができてからは在宅でフリーの校正を仕事としている。かなりの心配性。

兄:規士(ただし)高校一年生

中学までサッカークラブのジュニアユースに入っていたが、高校では部活動のサッカー部に入る。かなり上手で本人も熱中して取り組んでいたが、試合中に膝を故障してしまう。サッカーができず、その空いた時間にクラブ時代の友人(サッカーはすでにやめている)と遊ぶようになり、夜も出かけるようになる。

人当たりは良くはないが、母はこういう不器用な子こそ優しい人間に育つのではないかと思っている。

妹:雅(みやび)中学三年生

兄とは反対に人当たりがよい。その一方でサバサバした性格も持ち合わせており、個人的にはこの性格の組み合わせは好き。

勉強も良くでき、難関校合格に向けて受験勉強を頑張っている。

 

大まかな流れ(ネタバレ)

ある日、規士が夜に出かけると言ったまま帰ってこなくなる。今までも夜に出かけることはあったが、遅くとも朝の10時までには帰ってきていたので、何かあったのではないかと母の貴代美は心配が隠せない。

それまでにも規士が電話で不穏な話をしていたのを妹の雅が聞いていたり、規士の部屋からナイフが見つかったり、ということがあり、それらが余計に貴代美を不安にさせる。

そこに彼女らの住む街で少年が暴行を受け殺されたというニュースが報じられる。そのニュースによると、少年が一人死亡、少年二名の逃げる姿が目撃されたという。さらに情報を仕入れていくと、死亡したのは規士ではなく、現在行方不明の少年が三名いるらしいということも分かってくる。目撃されていないもう一人は一体どこにいるのか。。。そして、息子は加害者側なのか、被害者側なのか。。

結局規士は被害者側で加害者側の少年に殺されたということだった。

 

 

 

さて感想に入る。

 

まず主題だが、単純明快だけど良い主題だなと思った。

事件が起きて行方不明の少年が三名いるが、状況としては息子が被害者・加害者両方の可能性があるわけだ。

この極端な状況設定が、家族の各々が規士に対してどういう思いを持っているか、ということを浮き彫りにしてくれている。

息子が被害者か加害者かという究極の選択を迫られる状況設定がよくあるのかどうかは、ミステリー・サスペンスをあまり読んでいないので分からないが、面白い設定だった!

 

母は、たとえ加害者であっても規士には生きていてほしい、という思いを強く持っている。思春期で多少ぶっきらぼうなところはあれど、可愛い息子であることに変わりはなく、突然この世から消えるという事実をどうして受け入れることができるだろうか。この母の気持ちにはもちろん共感できる。

 

一方で、父は息子が人を殺すはずがない、という思いが強くある。規士との思い出をいくつか振り返ってみて、相手の気持ちを考えることができる人であることを身に沁みて感じているのだ。しかし、加害者側でないということは、裏返せば被害者?、、、という苦しい可能性を突きつけられる。

 

この相反する思いを持った父と母の間で言い合いが度々起こるが、この時すでに規士が亡くなっていたというのがとても皮肉な結末だった。警察は早くからある程度の情報を掴んでいたけれでも、捜査の都合上それを伝えることはできず、その間ずっと家族は数々の被害を受け、様々な苦悩を抱えて過ごしていたのがなんとも言えず辛い。。。

 

妹の雅は、受験も控えていてそのことで一杯一杯だったところ、兄が行方不明と知って、兄の心配までなかなか頭が回らないように感じた。塾の送迎中にお父さんに対して、お兄ちゃんが犯人じゃない方が良い、私の受験にまで影響があったら困るという話をしていた描写がある。

お兄ちゃんが犯人じゃない方がいい(それは被害者の可能性が高いということでもある)というのはきっと、そう思わないと自分が崩れてしまうからそう思うしかないのだろう。

確かにその通りと思ったものの、最後にそれは犯人だった時にだけ成り立つ論理だった、という解説があったのも正直ありがたかった。もしかしたらこういった文は読む人によっては野暮と言われるかもしれないが、個人的には印象に残る一文だった。

そしてそれに関連して、実際にお兄ちゃんの棺が家に運ばれてきた時に一番泣いたのは雅ちゃんだったという箇所が個人的には一番心に刺さった。序盤に説明があったが、規士は小学生になったくらいから雅を泣かすことはなくなって、それで雅は兄をからかったり、なめた態度を取ることもできたそう。おそらくだが、そんな表面上そんな仲良く見えていなくてもそこに愛情はあるはずである。普段は気付きにくいが、何かあった時にその兄弟愛・家族愛に気づくものだろう。

今回の物語はそれを強く意識させる展開だったと感じた。

雅のセリフや行動も、家族の不安を増やさないためと思えて泣けてくる。お兄ちゃんが帰ってこない状況で、そのことを誰かに何か言われる不安を抱えたまま、頑張って塾や学校にも行こうとしたりするのだ、、、

父がこうした状況でもあまり変わらない雅のサバサバした性格に救われている、と述べている描写があったが、多少そういう性格が元々あったにせよ、変わらないように健気に振る舞っていたのだなと私は感じた。

 

展開の仕方も面白くて

生きていてほしいと願っている母には被害者であるかもしれない証言や証拠が突きつけられ

一方加害者であってほしくない父には加害者であるかもしれない証言や証拠が集まってくる

という感じになっていた。

その証言については、規士のガールフレンドや中学時代の友人、ジャーナリスト、ネットの掲示板、一登の仕事関係者などが担っており、初めはよくわからなかった事件の真相が少しずつ明らかになっていく。最後に語り手を中心に詳細な真相が述べられているところで、規士の知られざる行動、思い、性格などが明らかになる。

ここでもっと他に方法があっただろうという思いもしないではない。がしかし、感情を揺さぶっておきたいと思ったので素直に人を思う気持ちがあって、正義心もあって、将来の夢も新たに持ち始めていた人物の未来が、不良少年の手によって奪われたと思うことにした。その結果、雅の号泣シーンでグサッときたのであるが。。。

 

とてもわかりやすい構成で、なるほどなるほど〜と一気に読み進めることができた。